導入:テレワーク導入・促進を強力に後押しする助成金
テレワークの導入や定着は、多くの企業にとって重要な経営課題となっています。しかし、特に都内の中小企業においては、「何から手をつければよいかわからない」「セキュリティが心配」「コストが負担になる」といった課題から、導入や本格的な活用に踏み切れないケースも少なくありません。
本記事で解説する「東京都テレワークトータルサポート助成金」は、まさにそうした悩みを抱える企業にとって、テレワーク環境の整備から多様な働き方の推進までを力強く後押しする制度です。
この助成金は、支給要綱第1条にも示されている通り、「テレワークの導入・定着・促進に取り組む都内中堅・中小企業等に対し、その取組に係る経費の助成を行い、企業のテレワークの導入・定着・促進を図ること」を目的としています。
制度の大きな特徴は、テレワークに必要な機器導入などを支援する「必須項目(テレワーク環境の整備)」を土台としながら、企業の状況に応じて以下の2つの「加算項目」を組み合わせられる点にあります。
育児・介護コース
3歳未満の子の育児や介護と仕事の両立を支援するテレワーク規程の整備を支援
職場環境改善コース
テレワークが困難な従業員の熱中症対策を支援
これにより、単なる機器導入に留まらず、企業の働き方改革全体をトータルでサポートする設計となっています。次のセクションから、この強力な助成金の具体的な内容を一つひとつ詳しく見ていきましょう。
関連資料等
動画解説
1. 助成金の概要:3つのコースと助成額を理解する
まずは相談窓口から
「相談窓口」と「コンサルティング」の違いを理解しましょう。
全ての申請者はまず「相談窓口」を利用し、制度概要や流れについて助言を受ける必要があります。これは必須の第一歩です。一方、「コンサルティング」は、加算項目を申請する場合や、対象者に正社員以外の労働者を含むといった、より専門的な計画を立てる際に必要となる、専門家による踏み込んだ支援です。
自社の計画にどちらが必要か、最初の相談窓口利用時に必ず確認しましょう。
助成金の活用を検討する上で、まずは制度の全体像を正確に把握することが計画策定の第一歩です。本助成金は、すべての申請企業が取り組む「必須項目」と、特定の要件を満たすことで追加申請できる2つの「加算項目」で構成されています。
それぞれの目的と支給額を理解し、自社の課題解決に最適なプランを描きましょう。
各コースの概要と事前条件
以下に、3つのコースの具体的な内容と、申請に必要な事前条件をまとめました。特に加算項目を検討する場合は、東京都が実施する専門家コンサルティングの利用が必須となる点にご注意ください。
| コース名 | 事業内容 | 事前条件 |
|---|---|---|
| 必須項目 テレワーク環境の整備 | 在宅勤務やモバイル勤務を可能にする情報通信機器等(PC、ソフトウェア、VPN環境構築など)の導入によるテレワーク環境整備 | 「テレワークトータルサポート事業 相談窓口」必須 |
| 加算項目① 育児・介護コース | ・財団が定める研修の受講 ・3歳未満の子の育児または介護を行う労働者が在宅勤務等を可能とするテレワーク制度を新たに規程として整備し、社内に周知 | 「相談窓口」「コンサルティング」必須 |
| 加算項目② 職場環境改善コース | テレワークが困難な業務に従事する従業員の熱中症対策として、体温を下げる機能を持つ作業服等(遮熱ヘルメット、電動ファン付き作業服など)の導入による環境整備 | 「相談窓口」「コンサルティング」必須 |
助成額と助成率
助成額は、企業の規模や選択するコースによって異なります。自社の状況と照らし合わせ、上限額や助成率を確認してください。
必須項目:テレワーク環境の整備
| 事業者の規模(常時雇用する労働者数) | 助成上限額 | 助成率 |
|---|---|---|
| 2人以上29人以下 | 上限150万円(うち委託費上限50万円) | 3分の2 |
| 30人以上999人以下 | 上限250万円(うち委託費上限62.5万円) | 2分の1 |
加算項目
| コース名 | 助成額 | 助成率 |
|---|---|---|
| ① 育児・介護コース | 定額20万円 | ― |
| ② 職場環境改善コース | 最大50万円(対象者1人あたり上限1万円) | 10分の10 |
これらの助成金を受け取るためには、企業が満たすべきいくつかの要件があります。
次のセクションでは、自社が対象となるかどうかを確認するための具体的な要件を詳しく解説します。
2. 助成対象事業者の主な要件:あなたの会社は対象?
助成金の計画を具体的に進める前に、自社が対象事業者の要件をすべて満たしているかを確認することが不可欠です。申請後に要件を満たしていなかったことが判明すると、それまでの準備が無駄になってしまう可能性があります。
以下に主要な要件をリストアップしましたので、一つずつチェックしていきましょう。
- 事業場所
都内で事業を営んでいること。法人の場合は都内に本店または支店登記があり、個人事業主の場合は都内税務署へ開業届を提出している必要があります。 - 企業規模
常時雇用する労働者が2人以上999人以下の都内中堅・中小企業等であること。 - 雇用条件
都内に勤務する常時雇用労働者を2名以上雇用し、そのうち1名は申請日時点で6か月以上継続して雇用しており、かつ雇用保険被保険者であること。 - 事前相談
東京都が実施する「テレワークトータルサポート事業 相談窓口」を利用し、「相談窓口利用証」を受領していること。これは必須の要件です。 - 税金の納付
法人都民税・法人事業税(個人事業主の場合は個人都民税・個人事業税)など、都税の未納がないこと。 - 法令遵守
過去5年間に重大な法令違反がなく、労働基準法などの労働関係法令を遵守していること。 - 宣言制度への登録
実績報告書を提出するまでに、東京都が実施する「テレワーク東京ルール実践企業宣言」制度へ登録し、「テレワーク推進リーダー設置」の表示がある宣言書が発行されていること。 - その他
風俗営業等を行っていないこと、暴力団関係者でないことなどが要件として定められています。
■追加要件
専門家コンサルティングが必須となるケース 以下のいずれかに該当する場合、必須の「相談窓口」利用に加え、「テレワークトータルサポート事業 コンサルティング」の利用と「コンサルティング内容確認書」の受領が追加で必要になります。
• 加算項目を申請する場合
◦ 育児・介護コース
◦ 職場環境改善コース
• テレワーク対象者に以下を含む場合
◦ 常時雇用ではない労働者(契約社員、パートタイマー等)
◦ 派遣労働者
要件を満たしていることが確認できたら、次はいよいよ具体的な計画策定の核となる「助成対象経費」について見ていきましょう。
3. 対象となる経費・ならない経費
助成金を最大限に活用し、審査での減額や不採択といった事態を避けるためには、何が対象経費になり、何がならないのかを正確に理解しておくことが極めて重要です。ここでは、各コースで対象となる経費の具体例と、特に注意が必要な対象外経費の例をご紹介します。
対象となる経費の例
必須項目:テレワーク環境の整備
- 消耗品費
パソコン、タブレット、スマートフォン、Webカメラ、マイク、モニターなどの周辺機器(※税込単価1千円以上10万円未満のもの)←10万円未満の物品購入は『消耗品費』に分類されます。 - 業務ソフトウェア購入費
財務会計ソフト、CADソフトなど、テレワークで利用する業務用のソフトウェア(※税込単価10万円以上のもの)←10万円以上のソフトウェアのみ、この費目で計上可能です。 - 委託費
VPN環境構築の初期設定費用、パソコンの初期設定作業など、専門業者に委託する経費 - 賃借料
パソコンやタブレットのリース・レンタル料金(※最長3か月分まで) - 使用料
クラウド型グループウェアやセキュリティソフトなどのライセンス使用料(※最長3か月分まで)
加算項目②:職場環境改善コース
- 消耗品費
◦ 遮熱ヘルメット(国家検定合格品)
◦ 電動ファン付き作業服
◦ クールベスト、水冷服
◦ 暑熱下でのリスクを回避するためのウェアラブルデバイス
【重要】対象とならない経費の例
以下の経費は助成対象外となります。
見積もりや購入計画を立てる際に誤って含めないよう、特にご注意ください。
- 中古物品
完全な新品ではない製品はすべて対象外です。
【要注意】「アウトレット品」「整備済み品」「新古品」といった表記の製品は、新品と見なされず対象外となるケースがほとんどです。確実に助成対象とするため、正規販売代理店から完全な新品を購入する計画を立ててください。 - 間接経費
消費税、振込手数料、収入印紙代、送料などは対象外です。助成額は税抜価格を基に計算されます。 - 通信費
Wi-Fiの月額料金、インターネット回線料、携帯電話の通話料などは対象となりません。 - 社内環境の整備にあたるもの
主にオフィス内で利用される無線LANアクセスポイント、スイッチングハブ、NASなどは対象外です。 - システム開発・改修及び構築にあたるもの
スクラッチ開発やパッケージソフトのカスタマイズ費用は対象外です。 - その他
机、椅子、のぞき見防止フィルム、USBメモリ、インクカートリッジ、延長コードなども対象外となるため、詳細は募集要項でご確認ください。
対象経費の範囲をしっかり理解した上で、次のセクションでは、申請から助成金を受け取るまでの具体的なステップを確認していきましょう。
4. 申請から受給までの7ステップ
助成金の申請プロセスは一見すると複雑に思えるかもしれませんが、手順を一つずつ分解して理解すれば、スムーズに進めることが可能です。ここでは、申請準備から助成金の受領までを7つのステップに分けて解説します。
- 【STEP1】東京都の「テレワーク相談窓口」を利用する
助成金申請の必須条件です。まずは専門の相談員に自社の状況を相談し、助言を受けましょう。加算項目の申請等を検討している場合は、この段階でコンサルティングの利用も申し込みます。相談後、「相談窓口利用証」が発行されます。 - 【STEP2】事業計画を立て、申請書類を提出する
相談窓口での助言を基に、導入する機器や対象者などを具体的に定めた「事業計画書兼支給申請書(様式第1号)」を作成します。その他必要な書類を揃え、東京しごと財団へ提出します。
◦ 申請期間:令和7年6月10日~令和8年2月27日 - 【STEP3】支給決定通知を受け取る
提出された書類に基づき財団で審査が行われ、助成金の支給が適切と判断されると「支給決定通知書」が届きます。
【最重要】この通知書を受け取る前に、機器の発注・契約・購入など事業に着手することは絶対にできません。通知日より前に行われた契約や支払いは、すべて助成対象外となります。 - 【STEP4】助成事業を実施する
支給決定日から4か月以内に、事業計画に沿って機器の購入やソフトウェアの導入、各種設定、規程の整備などを行います。**【ポイント】**この4か月という期間は、機器の選定・発注・納品・設定、そして対象者全員のテレワーク実績(6回以上)達成までを完了させる必要があり、想像以上にタイトです。支給決定通知を受け取ったら、速やかに事業に着手できるよう、事前の計画とベンダーとの調整を綿密に行いましょう。 - 【STEP5】実績報告を行う
計画した事業がすべて完了したら、支給決定日から5か月以内に「実績報告書(様式第7号)」と、発注書・請求書・支払証明などの関係書類を提出します。この際、整備したテレワーク環境を活用し、対象者全員が6回以上テレワーク勤務を実施した実績の報告が必要です。 - 【STEP6】助成額の確定通知を受け取る
提出された実績報告書が審査され、最終的に支給される助成金の金額が記載された「助成額確定通知書」が届きます。 - 【STEP7】助成金を請求し、受領する
確定した助成金額に基づき、請求手続きを行います。手続き完了後、指定した金融機関の口座に助成金が振り込まれます。
各ステップには、さらに細かい注意点が存在します。次のセクションでは、申請の成否を分ける可能性のある重要なポイントを深掘りして解説します。
5. 申請前に知っておきたい重要ポイントと注意点
申請プロセスにおける失敗や、予期せぬ助成金の減額を避けるためには、多くの申請者が見落としがちなポイントやルールを事前に把握しておくことが非常に重要です。ここでは、特にお問い合わせの多い事項をQ&A形式でまとめました。
Q: 支給決定前に購入したパソコンも対象になりますか?
A: いいえ、なりません。本助成金では、支給決定日より前に発注・契約・購入したものはすべて助成対象外です。必ず「支給決定通知書」が手元に届いてから、事業を開始(発注・購入)してください。(FAQ Q4-7)
Q: テレワークの実績はどのくらい必要ですか?
A: 必須項目では、整備したテレワーク環境を活用し、テレワーク実施対象者全員が、事業実施期間内に6回以上のテレワーク勤務(在宅またはモバイル勤務)を実施した実績を報告する必要があります。この要件を満たせない対象者に係る経費は、助成金が減額される対象となりますのでご注意ください。特に、在宅・モバイルの両方で申請した対象者は、それぞれの形態で最低1回以上実施した上で、合計6回以上を達成する必要があります。(募集要項 P5)
Q: 申請後にテレワーク対象者を変更できますか?
A: 原則として変更できません。 ただし、申請時に予定していた対象者が退職・異動となった場合に限り、その業務を引き継ぐ後任者を新たな対象者とすることが認められる場合があります。事業計画は慎重に立てる必要があります。(募集要項 P6, FAQ Q4-8)
Q: 「テレワーク東京ルール実践企業宣言」とは何ですか? いつまでに登録が必要ですか?
A: 東京都が実施する、各企業が独自のテレワークに関するルールを策定し宣言する制度です。この助成金では、実績報告書を提出するまでにこの制度へ登録し、「テレワーク推進リーダー設置」の表示がある宣言書を取得していることが要件となります。登録手続きには時間がかかる場合があるため、早めの準備をお勧めします。(募集要項 P3, P11)
Q: 支払いで注意すべき点はありますか?
A: 経費の支払いは、原則として助成対象事業者名義の銀行口座からの振込が最も安全です。クレジットカード払いは、その支払い方法しか選択できない場合に限定的に認められますが、実績報告日までに口座からの引き落とし完了が絶対条件であり、これが間に合わずに対象外となるケースが頻発しています。可能な限り口座振込を選択することを強くお勧めします。また、機器の購入などで得たポイントは、現金換算して助成対象額から減額(相殺)する必要があるため注意が必要です。(FAQ Q6-5, Q6-7)
Q: 申請方法は郵送と電子申請(Jグランツ)で何が違いますか?
A: 社会保険労務士などの代理人が申請手続きを代行する場合は、郵送申請のみ可能です。電子申請システム(Jグランツ)では代理人による申請は認められていません。自社で手続きを行う場合は、どちらの方法でも申請可能です。(募集要項 P12)
これらのポイントをしっかり押さえることで、申請プロセスをより確実なものにできます。最後に、本記事のまとめと、次にとるべきアクションについてご案内します。
まとめと公式情報
ここまで解説してきたように、「テレワークトータルサポート助成金」は、単なる機器導入の費用補助に留まらず、育児・介護との両立支援やテレワークが困難な従業員の職場環境改善まで、企業の多様なニーズに応える非常に強力な制度です。
この助成金を成功裏に活用するための鍵は、以下の3点に集約されます。
- まずは必ず「相談窓口」へ:
自己判断で進めず、専門家の助言を得て計画の精度を高めましょう。 - 「支給決定通知書」がスタートの合図
フライングによる発注・購入は、最も多い失格理由の一つです。絶対に避けてください。 - ゴールを見据えた事業実施
対象者全員のテレワーク6回実施など、実績報告の要件を常に意識して事業を進めることが、満額受給の鍵です。
複雑に見える制度ですが、一つひとつのステップと要件を正しく理解し、計画的に進めることで、必ずや貴社の働き方改革の大きな推進力となるはずです。
ご興味を持たれた方は、まずは以下の公式情報を確認し、専門の相談窓口へ問い合わせることから始めてみてください。まずは専門の相談窓口で自社の状況を相談し、最適な活用プランを見つけることから始めましょう。

コメント