はじめに
人材育成施策の成果を「見える化」し、現場で活用するためには、KPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。効果的な人材育成には具体的なKPIの設定が必要であり、KPIがあることで人材育成を客観的に進められ、課題も明確化できます。
本記事では、人材育成におけるKPIの定義と重要性、適切なKPI設定のステップ、定量評価と定性評価の使い分け、よくある失敗例とその回避策、さらにKPI設定後の運用・改善サイクルについて解説します。人事担当者や経営層の方が、人材育成の成果を正しく数値化して評価するためのヒントになれば幸いです。
動画解説
最初に記事内容の概要を動画で簡単に確認しましょう。
人材育成におけるKPIとは何か?その定義と重要性
KPI(Key Performance Indicator)とは「目標の達成度合いを測定する定量的な指標」のことで、中間目標を意味します。ビジネスにおいて最終目標(KGI)の達成に向けた進捗を数値で可視化するための指標であり、人材育成の分野でも活用されます。
人事分野の業務は定量化が難しいものも多いですが、KPIを正しく設定しないと目標達成が困難になるだけでなく、従業員のモチベーション低下にもつながります。
育成プロセスと成果の「見える化」
KPIが重要な理由としてまず挙げられるのは、育成プロセスと成果の「見える化」です。
KPIを設定して人材育成の目標を数値化することで、課題や目標までのプロセスが可視化しやすくなります。例えば「コミュニケーション力を向上させる」という抽象的な目標も、「研修後のコミュニケーション力テストで80点以上」というように具体的な数値指標を設定すれば、現状とのギャップを把握しやすくなります。
数値で評価すれば他の社員との比較も容易になり、低い項目に絞って対策を打つことでコストを抑えた効率的な育成が可能です。さらに、数値データとして管理すれば属人的な評価を排除でき、評価の公平性も高まります。
社員のモチベーション向上
次に、社員のモチベーション向上もKPI設定の重要な効果です。
KPIによって目標が具体化されると、「何をすべきか」が明確になるため行動に移しやすくなります。数値で進捗が示され、段階的に達成感を得られることで、社員はやりがいを感じやすくなり意欲も高まります。
例えば最終目標が「半年後に営業成績20%アップ」でも、途中のKPIとして「毎月の商談件数を○件以上」など設定すれば、社員は日々の行動目標を認識でき、達成するごとにモチベーションが維持・向上するでしょう。
人材育成の費用対効果の把握
さらに、人材育成の費用対効果の把握にもKPIは有効です。
限られた人材リソースや予算の中で、研修の受講率や研修後の業績変化などの指標を追うことで、投下したコストに見合う成果が出ているかチェックできます。いくら育成にコストをかけても成果が出ていなければ意味がありません。KPIを使って育成施策のROI(費用対効果)を測定し、効果の低い研修内容やプロセスがあれば見直すことで、育成予算の最適配分やノウハウの蓄積につなげることができます。
このようにKPIは人材育成を客観的かつ効率的に進めるための羅針盤となります。人材育成にKPIを取り入れることで組織や個人の状況を数値で把握でき、限られた人材を有効に活用しやすくなるのです。
では、具体的にどのようにKPIを設定すればよいのでしょうか。次章でステップごとに見ていきましょう。
人材育成KPI設定のステップ【目標設定→指標選定→測定方法→フィードバック】
人材育成におけるKPI設定は、次のようなステップで進めます。自社の状況や人材育成の目的に合わせて順を追って検討してみましょう。
ステップ1:育成の目的・目標を明確に設定する
まず最初に、人材育成の目的や達成したいゴールを明確に設定します。
これはKPI設定の土台となる重要な作業です。企業全体のビジョンや経営課題と照らし合わせ、「なぜ人材育成を行うのか」「育成によってどんな成果を上げたいのか」を具体化しましょう。可能であれば、人材育成の最終目標(KGI)を定め、その達成に必要な要素を洗い出します。
例えば「営業力強化による売上〇%向上」がKGIであれば、人材育成面では「営業研修で◯◯スキルを習得させる」といった中間目標を設定します。
目標設定にあたっては、漠然と「社員の成長を促す」ではなく達成基準を明確に定めることが重要です。何をもって成功とみなすか(評価基準)、いつまでにどの程度達成するか(期限や数値目標)をはっきりさせましょう。目標が曖昧だと進捗のギャップが把握しにくく、関係者間で共有もしづらくなります。
現状の課題を分析し、現実的かつ意欲を引き出せる目標水準を設定してください(高すぎても低すぎても問題です)。目標設定時には、後述する「SMARTの法則」や「5W1H」といったフレームワークを活用すると効果的です。
SMARTの法則
Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(経営戦略や個人目標に関連性がある)、Time-bound(期限がある)という5要素を満たすよう目標を定める手法。
例えば「コミュニケーション力を高める」という目標をSMARTに落とし込むと「次回評価面談までにロールプレイ研修を5回実施し、上司の評価スコアを平均○点上げる」のように具体化できます。こうした基準を設けることで、目標達成後の姿がイメージしやすくなり、社員の納得感も高まります。
ステップ2:KPIとなる評価指標(評価項目)を選定する
目標が定まったら、その達成度を測るKPI指標(評価項目)を選びます。
目標と直結し、できる限り数値で表せる具体的な指標を設定しましょう。指標がぼんやりしていると進捗管理が難しくなります。例えば、「リーダーシップ向上」という目標に対しては「社内資格○○を取得したリーダー人数」「半年以内に新プロジェクトを主導した回数」など、定量的に測れる項目を設定します。
評価方法や基準も合わせて決めておくと良いでしょう。たとえば「研修テストで80点以上を取得した人数を指標とする」「接客ロールプレイの評価基準を5段階で定め、その平均点を指標とする」など、評価基準・達成基準を具体化しておきます。
人材育成でよく使われるKPI指標の例としては、次のようなものがあります。
- スキルや資格の習得状況
業務に必要な資格の保有者数・割合、新たに習得したスキル数など。例:「特定資格の取得者数を前年から○名増加」、「コミュニケーション能力テストで80点以上の社員割合」。 - 研修の受講率・参加数
対象者のうち何名が研修を受講したか、その割合。例:「管理職研修の受講率90%以上」、「年間〇回の研修参加者数○名」。 - 研修コスト・ROI
研修にかかった費用対効果。例:「研修後半年間の営業成績向上額/研修費用=○倍」、「1人当たり研修費用○万円以内」。 - 研修後の成果・評価
研修受講者の業務成績の変化や周囲からの評価。例:「研修後3ヶ月の営業成約数が20%増加」、「360度評価で“リーダーシップが向上した”とのフィードバックが○%から○%に改善」。 - 人材育成計画の達成度
計画した育成施策がどこまで実行・完了したか。例:「年度計画に掲げた育成施策10項目中8項目完了」、「OJT計画の消化率90%」。
上記のように、自社の育成目的に合ったKPI指標を選定してください。定量目標と定性目標のバランスも考慮しましょう(詳細は後述)。
KPIは基本的に達成率100%を目指すものですが、あまりにも易しすぎる指標では目標設定が甘すぎますし、逆に不可能に近い水準では意欲を損ないかねません。現状を踏まえて「少し頑張れば届く」適切な指標値を設定することが大切です。
ステップ3:KPIを測定する方法を決める
選定したKPI指標について、具体的な測定方法・評価方法を決めます。
誰がいつどのようにデータを収集し評価するのかを明確にしておきましょう。定量指標であれば、人事システムやExcelで数値を集計・管理します。定性指標(数値化しにくい項目)の場合は、評価シートやアンケート、面談記録などを活用して情報を定形化します。
例えば、研修後の業務成果を測るなら「研修前後のKPI数値を比較する」手法を取ります。営業研修であれば受講者の売上件数や顧客満足度スコアを研修前後で追跡する、といった具合です。また、研修の満足度や受講者の行動変容などはアンケートや上司からのヒアリングで評価します。
ここで有効なのが360度評価(多面評価)です。360度評価とは、上司・同僚・部下・自己評価など複数の視点から一人の社員を評価する手法で、上司だけでは観察しにくい変化も把握できます。例えば研修受講者に対し、上司・同僚から「行動にどんな変化があったか」をフィードバックしてもらえば、定性的な成長も評価に織り込めます。定性評価を取り入れることで、数字に現れない成長や風土面の変化も見逃さずに済むでしょう。
測定方法を決める際には、評価者による主観差を減らす工夫も必要です。評価基準のガイドラインを設け、可能なら複数人で評価した平均を取る、評価者のトレーニングを行う等で信頼性を高めます。また、データの収集・分析には人事評価システムやタレントマネジメントツールの活用も検討してください。
例えば、KPIをシステム上で一元管理してダッシュボードで推移を見える化すれば、手間を減らしつつ迅速な分析が可能です。せっかく良いKPIを設定しても、測定不能だったり運用が煩雑すぎたりすると定着しないので注意しましょう。
ステップ4:結果をフィードバックし改善につなげる
KPIを設定してデータを収集したら、定期的に結果をフィードバックするプロセスが重要です。
KPIは設定して終わりではなく、進捗状況をチェックし、関係者に伝えて改善アクションにつなげてこそ価値があります。人材育成においては、上司と部下の定期面談や1on1ミーティングの場でKPIの達成度合いを確認し、達成できていない場合は原因を一緒に考えます。「なぜ目標との差が生じているのか?」「目標達成のためにどんな支援や行動が必要か?」を話し合い、次の施策に反映させましょう。
フィードバックはできるだけタイムリーに、具体的に行うことがポイントです。年1回の評価面談だけでは遅すぎます。理想的には月次や四半期ごとにKPI進捗をレビューし、都度アドバイスや軌道修正を行います。フィードバックの際には成果が出ている点は称賛し、足りない点は改善策を提案するなどメリハリをつけます。例えば「目標件数に届かなかったのは提案数が不足していたからなので、次月は提案アプローチ数を○件増やしてみましょう」のように具体策を伴う指導を行うと効果的です。
また、フィードバックを本人だけでなく組織全体で共有することも大切です。部門ごとのKPI達成状況をチームミーティングで共有すれば、組織として課題認識を合わせることができます。部門間でKPIを共有・可視化することで、部署ごとの目標不一致による摩擦も防げるでしょう。
たとえば営業部門のKPI(売上目標達成)とサービス部門のKPI(顧客維持率)が衝突しないように、お互いの指標を開示してバランスを取るといった取り組みです。社内コミュニケーションが円滑であれば、フィードバックも前向きに受け止められ、人材育成のサイクルがスムーズに回ります。
以上がKPI設定の基本ステップです。次に、定量評価と定性評価の違いに触れつつ、KPI設定上のポイントを見ていきましょう。
定量評価と定性評価の違いと使い分け
KPIを設定する際には、定量的な指標(数値で測れるもの)と定性的な指標(数値化しにくいもの)の両方を適切に組み合わせることが重要です。それぞれ特徴が異なるため、長所を活かしつつ短所を補う形で使い分けます。
定量評価
物事を数値で表す評価方法です。売上高・件数・割合・点数など客観的な数値で成果を示すため、達成度合いを一目で把握でき、比較や分析が容易です。誰が見ても同じ基準で評価できるため公平性も高く、チーム内で共通認識を持ちやすい利点があります。短期的な成果管理に適しており、進捗を定期チェックして改善するPDCAにも向いています。一方で、数字に現れにくい要素は測れないという弱点があります。数値目標ばかり追求すると、人間の成長や組織風土の変化など定性的な部分が見落とされがちです。
定性評価
物事を言葉や観察で表す評価方法です。数値化が難しい「行動の質」「態度の変化」「能力の発揮状況」といった部分を評価できます。例えば「チームワークが良くなった」「主体的に業務に取り組むようになった」といった評価は定性情報です。定性評価は長期的な成長や行動変容を捉えるのに効果的で、数値では測れない人材のコンピテンシー(能力発揮特性)や意欲を評価できます。ただし評価者の主観に左右されやすく、基準がぶれたり比較が難しかったりする点がデメリットです。
使い分けのコツは、業務の特性や期間に応じて両者をバランスよく組み合わせることです。短期的な目標達成には定量KPIで進捗管理をし、長期的な人材育成効果は定性評価で補完するイメージです。重要なのは、一方に偏りすぎないこと。例えば新人研修の効果測定では、「テスト点数(定量)+上司評価コメント(定性)」のように組み合わせると、知識定着度と職場での実践度の両面から成果を捉えられます。
また、定性目標もできる限り定量化できる指標に置き換えてみる工夫が有効です。例えば「チームのコミュニケーションを円滑にする」という定性目標に対し、「月1回以上チームミーティングで意見交換の場を持つ」といった定量目標を設定して管理する、といった方法です。
総じて、定量は客観性と即効性、定性は網羅性と長期的視点をもたらします。それぞれのメリット・デメリットを理解し、評価項目によって柔軟に使い分けましょう。例えば研修の満足度や職場のエンゲージメント向上といった定性面も、人事サーベイ(アンケート)によって数値指標化することでKPIに組み込むことができます。
一方、数字目標の達成状況を評価するときも、背景にある行動の質を上司コメントで補足評価することで、公平かつ納得感のある評価につながるでしょう。
KPI設定で陥りがちな失敗例とその回避策
KPI設定は人材育成を「見える化」する強力な手段ですが、やり方を誤ると逆効果になる場合もあります。
ここではKPI設定のよくある失敗パターンを4つ紹介し、それぞれの回避策を解説します。事前に失敗ポイントを把握し、適切に対処することで、KPIを正しく活用しましょう。
| よくある失敗例 | 回避策・対処法 |
|---|---|
| ① KPIの数が多すぎる | KPIは重要なものに絞り込みましょう。1つの目標(KGI)につき3~5個程度が適切です。あれもこれもと10個以上設定するとリソースが分散し、結局どれも達成できなくなりがちです。 優先順位を見極め、重要度の低い指標は思い切って外してください。 |
| ② ボトルネックの発見が遅れる | 先行指標と遅行指標を理解してバランス良く設定しましょう。結果が出るまで時間がかかる指標(遅行指標)ばかり注目していると問題発見が遅れます。そこで、成果に先行して現れる指標(先行指標)もKPIに含めます。 例えば研修効果の遅行指標が「半年後の売上増」なら、先行指標として「研修直後の理解度テスト結果」や「受講翌月の提案件数増加」を追う、といった具合です。こうすることで、早期に手を打つことができます。 |
| ③ 数字にこだわりすぎて目的を見失う | KPIの達成そのものが目的化してしまうケースです。数字目標を追求するあまり本来の最終目的(KGI)を見失うと、本末転倒になりかねません。 対策として、KPIはあくまで中間指標であり、最終ゴール達成の手段であることを常に意識づけます。上司や経営層は、部下に数字の意味合いを説明し、「何のためにそのKPIを達成するのか」を共有しましょう。KPIの数値だけで評価せず、その裏にある質的な成果も含めて振り返ることで、真の目的を見失わずに済みます。 |
| ④ 部門ごとにKPIがバラバラ | 部門横断的な整合性を欠いたKPI設定は、組織全体では非効率を招きます。部門間でKPIを共有・連動させる仕組みを作りましょう。 例えば人材育成施策で営業部は「新規顧客獲得数」をKPIにしているのに、人事部は「従業員エンゲージメント向上」を目標にしている場合、一見無関係に見えます。しかし最終的には両者をリンクさせ、「エンゲージメント向上によって営業成績も向上する」という仮説のもとで協力できる仕組みを考えることが重要です。 定期的な情報共有会議を設けたり、共通のKPI(例:離職率低減など)を設定したりして、組織全体で統一感のある目標管理を行いましょう。 |
いずれの失敗例も、「KPIを設定して運用していく中で起こりがちな課題」です。KPIの数は少なすぎても網羅性を欠きますが、多すぎると手に負えません。自社の重要指標は何か見極めて適切な数に絞ることが成功のカギです。
また、KPI設定後も環境変化に合わせた見直しが必要です。市場やビジネス戦略が変化すれば、必要な人材育成の指標も変わる可能性があります。「設定したら終わり」ではなく、状況に応じて柔軟にKPIそのものを調整することも検討しましょう。
KPI設定後の運用と改善サイクルを回すポイント
KPIを設定した後は、その運用と改善のサイクルを組織に根付かせることが肝心です。
PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を活用し、継続的に目標達成への取り組みをブラッシュアップしましょう。KPIを用いた人材育成マネジメントの概略は次のとおりです。
- Plan(計画)
人材育成の目標とそれに対応するKPIを設定する段階です(ここまで解説した内容です)。計画段階で組織の戦略と個人の目標を結びつけ、達成基準と評価方法を定めます。 - Do(実行)
計画に基づき研修やOJTを実施し、日々の業務の中で社員に取り組んでもらいます。KPI達成に向けて必要なリソース(研修教材、メンター制度など)を提供し、現場で実践してもらいます。 - Check(評価・点検)
定めたKPI指標をモニタリングし、進捗データを収集して評価します。定量指標は数値として集計・分析し、定性指標はフィードバック面談やアンケート結果から傾向を探ります。「計画通り進んでいるか」「目標と現状のギャップはどれくらいか」を確認するフェーズです。 - Action(改善)
評価結果に基づき、育成計画や施策を見直して改善策を講じます。達成が遅れているなら追加研修や目標修正を検討します。逆に順調すぎる場合は目標を上方修正してチャレンジングな環境を作るなど、次のPlanに反映させます。このフィードバックから次の計画への接続が、継続的な成長サイクルを生むポイントです。
大事なことは、KPIを「回し続ける」仕組みを作ることです。
せっかく設定したKPIも、現場で活用されなければ宝の持ち腐れになります。管理職が率先してKPIを活用し、日々のコミュニケーションの中でKPIの話題を取り上げる文化を作りましょう。例えば週次のチーム会議でKPI進捗グラフを確認したり、人事が全社のKPIダッシュボードを公開して社長メッセージで触れたりするなど、組織全体でKPIを意識する土壌を育てます。
また、人事評価や報酬制度とも連動させると効果的です。KPI達成度を人事評価項目に組み込めば、社員の意識も高まります。ただし評価に組み込む際は、前述のように数値目標だけで判断せず質的な貢献も加味する運用が必要です。評価制度とKPIをうまく連動させれば、社員の成長促進と公正な評価が両立できます。
最後に、ツールの活用も検討しましょう。スプレッドシートで手作業管理していると集計ミスや更新漏れが発生しがちです。近年では人材データを一元管理できるタレントマネジメントシステムが普及しており、KPI管理の工数を削減できます。例えば、人事SaaSを用いればリアルタイムでKPIの進捗をグラフ化できたり、社員へのフィードバック内容を蓄積できたりします。自社の規模に応じて、Excel+簡易BIツールの活用や専門システム導入も視野に入れると良いでしょう。
まとめ:KPIを味方につけて人材育成を「見える化」しよう
人材育成の効果を正しく評価するには、KPIによる見える化と継続的な改善が欠かせません。
KPIは、人材育成における中間目標として進捗状況や達成率を数値で把握させてくれる指標です。適切なKPIを設定すれば、「今どの段階か」「何が不足しているか」を客観的に捉え、効率的に目標達成へ向かえます。そのためにも本記事で紹介したポイント――目的の明確化、具体的な指標設定、定量・定性評価の使い分け、失敗例の回避策、PDCAによる運用改善――を踏まえて、自社に合ったKPIマネジメントを実践してみてください。
人材育成の成果が数字で見えるようになれば、現場の納得感も増し、経営層への説明もしやすくなります。そして何より、社員一人ひとりの成長を実感できる組織風土づくりにつながるでしょう。KPIを上手に味方につけて、貴社の人材育成をさらなる成功へ導いてください。
音声動画解説
ガイド:Q&A
1. 人材育成の文脈におけるKPIの定義とその役割について説明してください。
KPI(重要業績評価指標)とは、「目標の達成度合いを測定する定量的な指標」であり、最終目標(KGI)に向けた中間目標を意味します。人材育成においては、育成の進捗や成果を数値で「見える化」し、客観的な評価を可能にする羅針盤としての役割を果たします。
2. 人材育成においてKPIを設定することが重要な理由を2つ挙げ、それぞれ簡潔に説明してください。
一つ目は、育成プロセスと成果の「見える化」です。目標を数値化することで課題や進捗が可視化され、客観的で公平な評価が可能になります。二つ目は、社員のモチベーション向上です。目標が具体化されることで行動しやすくなり、進捗が数値で示されることで達成感を得やすく、意欲が高まります。
3. 人材育成のKPIを設定するための4つの基本ステップを順番に挙げてください。
人材育成のKPI設定は、以下の4つのステップで進められます。
1. 育成の目的・目標を明確に設定する
2. KPIとなる評価指標(評価項目)を選定する
3. KPIを測定する方法を決める
4. 結果をフィードバックし改善につなげる
4. 目標設定で活用される「SMARTの法則」とは何か、その5つの要素を挙げてください。
SMARTの法則とは、効果的な目標設定のためのフレームワークです。目標が以下の5つの要素を満たすように定める手法を指します。
◦ Specific(具体的)
◦ Measurable(測定可能)
◦ Achievable(達成可能)
◦ Relevant(関連性がある)
◦ Time-bound(期限がある)
5. 人材育成でよく使われるKPI指標の例を2つ挙げてください。
例として、「スキルや資格の習得状況」や「研修の受講率・参加数」が挙げられます。前者は「特定資格の取得者数を前年から〇名増加」のように、後者は「管理職研修の受講率90%以上」のように具体的な数値で設定されます。
6. 「定量評価」と「定性評価」の主な違いは何ですか?
定量評価は、売上高や件数など客観的な「数値」で成果を評価する方法であり、比較や分析が容易です。一方、定性評価は、「行動の質」や「態度の変化」など数値化しにくい部分を「言葉や観察」で評価する方法で、長期的な成長を捉えるのに適しています。
7. KPI設定で陥りがちな失敗例のうち、「KPIの数が多すぎる」場合の問題点と、その回避策を説明してください。
問題点は、KPIの数が多すぎるとリソースが分散し、結局どの目標も達成できなくなることです。回避策として、KPIは本当に重要なものに絞り込むべきであり、1つの最終目標(KGI)に対して3~5個程度にすることが適切です。
8. KPIの運用において「先行指標」と「遅行指標」のバランスを取ることが重要なのはなぜですか?
結果が出るまで時間がかかる「遅行指標」(例:半年後の売上増)ばかりに注目していると、問題の発見が遅れてしまうからです。成果に先行して現れる「先行指標」(例:研修直後の理解度テスト結果)も追うことで、早期に課題を発見し、迅速に対策を打つことが可能になります。
9. KPIを設定した後の運用における「PDCAサイクル」とは何か、各フェーズを簡単に説明してください。
PDCAサイクルは、継続的に改善を行うためのフレームワークです。Plan(KPIを含む計画を立てる)、Do(計画に基づき施策を実行する)、Check(KPIの進捗を測定・評価する)、Action(評価結果を基に改善策を講じ、次の計画に反映させる)の4つのフェーズで構成されます。
10. 360度評価(多面評価)とはどのような手法で、人材育成においてどのように役立ちますか?
360度評価とは、上司、同僚、部下、自己評価など、複数の視点から一人の社員を評価する手法です。人材育成においては、上司だけでは観察しにくい研修後の行動変容など、定性的な成長を多角的に把握できるため、評価の客観性や網羅性を高めるのに役立ちます。
用語集
| 用語 | 説明 |
| KPI (重要業績評価指標) | Key Performance Indicatorの略。目標の達成度合いを測定する定量的な指標で、最終目標(KGI)に対する中間目標を意味する。 |
| KGI (重要目標達成指標) | Key Goal Indicatorの略。組織やプロジェクトが達成を目指す最終的な目標を定量的に示した指標。KPIはKGI達成のために設定される。 |
| 定量評価 | 売上高、件数、割合、点数など、物事を客観的な「数値」で表して評価する方法。比較や分析が容易で、公平性が高い。 |
| 定性評価 | 行動の質、態度の変化、能力の発揮状況など、数値化が難しい部分を「言葉」や「観察」によって評価する方法。長期的な成長や行動変容を捉えるのに適している。 |
| SMARTの法則 | 目標設定のフレームワーク。目標をSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)の5要素で具体化する手法。 |
| 360度評価 (多面評価) | 上司、同僚、部下、自己評価など、複数の視点から一人の社員を評価する手法。多角的な評価により、客観性や納得感を高めることができる。 |
| ROI (費用対効果) | Return On Investmentの略。投下した資本に対してどれだけの利益が得られたかを示す指標。人材育成においては、研修コストに対する成果を測るために用いられる。 |
| PDCAサイクル | Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価・点検)、Action(改善)の4つのプロセスを繰り返すことで、継続的に業務改善を行うマネジメント手法。 |
| 先行指標 | 最終的な成果(遅行指標)に先立って変動する指標。例えば、売上という遅行指標に対し、商談件数などが先行指標にあたる。 |
| 遅行指標 | 活動の結果として現れる指標で、成果を最終的に確認するもの。例えば、研修の成果としての数ヶ月後の業績向上などがこれにあたる。 |
| タレントマネジメントシステム | 社員の人事データやスキル、評価などを一元管理し、戦略的な人材配置や育成に活用するためのITツールやシステム。KPI管理の効率化にも寄与する。 |

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