エグゼクティブサマリー
令和8年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」より、記載対象となる親族の定義が従来の「控除対象扶養親族」から、新たに創設された「源泉控除対象親族」へと変更されます。この制度改正は、手続きを簡素化する目的で導入された「簡易な扶養控除等申告書」の利用可否を判断する上で重要な影響を及ぼします。
本件の核心は、前年からの「異動の有無」の判定基準です。令和7年時点で「控除対象扶養親族」であった親族が、令和8年においても引き続き同親族の要件(合計所得金額58万円以下)を満たす場合は「異動なし」と見なされ、簡易な申告書の提出が可能です。一方で、合計所得金額が58万円を超え100万円以下となり、新たに「特定親族」として「源泉控除対象親族」に該当するようになった場合は「異動あり」と判断され、通常様式の申告書に全ての必要事項を記載する必要があります。この判定は、申告書を紙で提出する場合でも、年末調整システム等を介して電子的に提出する場合でも同様に適用されます。
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1. 令和8年分からの扶養控除等申告書の主要変更点
令和7年分までの扶養控除等申告書では、従業員等の親族情報として「控除対象扶養親族」を記載していました。しかし、「特定親族特別控除」の創設に伴い、令和8年分以降の様式では、より広範な概念である「源泉控除対象親族」を記載することに改められました。
この変更は、令和5年度税制改正により導入された「簡易な扶養控除等申告書」の適用判定に直接影響します。簡易な申告書は、前年の申告内容から「異動なし」の場合にのみ使用できるため、「源泉控除対象親族」という新たな枠組みの中で、どのケースが「異動なし」に該当するのかを正確に理解することが不可欠です。
2. 親族区分の定義
令和8年分の申告における「異動の有無」を正しく判定するため、関連する各親族区分の定義を以下に整理します。
• 控除対象扶養親族:
◦ 居住者と生計を一にする親族のうち、合計所得金額が58万円以下で、かつ年齢が16歳以上の者。
◦ 令和7年分までの申告書における主要な記載対象でした。
• 特定扶養親族:
◦ 上記の控除対象扶養親族のうち、年齢が19歳以上23歳未満の者。
◦ 控除対象扶養親族の特別な区分です。
• 源泉控除対象親族:
◦ 令和8年分からの新たな記載対象であり、以下のいずれかに該当する者を指します。
1. 要件①: 「控除対象扶養親族」に該当する者。
2. 要件②: 居住者と生計を一にする親族のうち、年齢が19歳以上23歳未満で、合計所得金額が58万円超100万円以下の者。
◦ 要件②に該当する者は、「特定親族特別控除」の対象となる「特定親族」とも呼ばれます。
3. 「異動の有無」判定の基本原則
「簡易な扶養控除等申告書」は、前年の申告書に記載すべき事項の全てに異動がない場合に提出が認められます。したがって、親族のステータスに変更があった場合は、原則として「異動あり」と見なされ、簡易な申告書の対象外となります。
例えば、前年は18歳の「控除対象扶養親族」であった親族が、当年で19歳になり「特定扶養親族」に該当するようになった場合、これはステータスの変更と見なされ「異動あり」となります。
4. 令和8年分における「異動の有無」判定の具体例
令和7年分から令和8年分への移行期においては、「源泉控除対象親族」の新設に伴い、判定が複雑になります。以下に「異動なし」と「異動あり」のケースを具体的に解説します。
4.1. 「異動なし」と判定されるケース(簡易な申告書が利用可能)
前年から引き続き、親族が「控除対象扶養親族」の要件(合計所得金額58万円以下)を満たしている場合、「異動なし」と判定されます。これは、その親族が令和8年において「源泉控除対象親族」にも該当するようになったとしても、控除対象扶養親族であるという本質的なステータスに変わりはないためです。
• ケース [ア]:
◦ R7年: 控除対象扶養親族(16歳以上、所得58万円以下)
◦ R8年: 控除対象扶養親族(16歳以上、所得58万円以下)
◦ 判定: 異動なし。簡易な申告書を利用できます。
• ケース [ウ]:
◦ R7年: 特定扶養親族(19歳以上23歳未満、所得58万円以下)
◦ R8年: 特定扶養親族(19歳以上23歳未満、所得58万円以下)
◦ 判定: 異動なし。簡易な申告書を利用できます。
4.2. 「異動あり」と判定されるケース(簡易な申告書は利用不可)
前年は「控除対象扶養親族」であった親族が、令和8年において合計所得金額が増加し、新たに「特定親族」の要件(19歳以上23歳未満、所得58万円超100万円以下)を満たすようになった場合、「異動あり」と判定されます。これは、控除対象扶養親族ではなくなったという重大なステータス変更に該当するためです。
• ケース [イ]:
◦ R7年: 控除対象扶養親族(16歳以上19歳未満、所得58万円以下)
◦ R8年: 源泉控除対象親族(特定親族)(19歳以上23歳未満、所得58万円超100万円以下)
◦ 判定: 異動あり。年齢と所得の変動によりステータスが変更されたため、通常様式の申告書が必要です。
• ケース [エ]:
◦ R7年: 特定扶養親族(19歳以上23歳未満、所得58万円以下)
◦ R8年: 源泉控除対象親族(特定親族)(19歳以上23歳未満、所得58万円超100万円以下)
◦ 判定: 異動あり。所得の増加により控除対象扶養親族ではなくなったため、通常様式の申告書が必要です。
| ケース | 令和7年のステータス | 令和8年のステータス | 簡易な申告書の利用可否 | 主な理由 |
| [ア] | 控除対象扶養親族 | 控除対象扶養親族 | 可 (異動なし) | 引き続き所得58万円以下の控除対象扶養親族であるため。 |
| [イ] | 控除対象扶養親族 | 源泉控除対象親族(特定親族) | 不可 (異動あり) | 年齢・所得が変動し、所得58万円超の「特定親族」に該当したため。 |
| [ウ] | 特定扶養親族 | 特定扶養親族 | 可 (異動なし) | 引き続き所得58万円以下の特定扶養親族であるため。 |
| [エ] | 特定扶養親族 | 源泉控除対象親族(特定親族) | 不可 (異動あり) | 所得が増加し、所得58万円超の「特定親族」に該当したため。 |
5. 実務上の留意点
• 「異動あり」の場合の対応:
◦ 簡易な申告書の対象外となるため、令和8年分の通常様式の扶養控除等申告書に親族の情報を全て記入する必要があります。
◦ 特に、所得が58万円を超え「特定親族」に該当するようになった場合は、申告書の「特定親族」欄にチェックを入れることが必須です。
• 電子申告における注意:
◦ 年末調整システム等を通じて電子データで申告書を提出する場合も、上記の判定基準は全く同じです。
◦ システムによっては、前年からの異動の有無を入力する項目が設けられている場合があります。この入力内容を誤ると正しい税額計算ができない可能性があるため、従業員への周知と正確な入力の確認が重要となります。
ガイド:Q&A
問1. 令和8年分の「給与所得の扶養控除等(異動)申告書」において、記載が必要となる親族情報の最も重要な変更点は何ですか?
問2. 令和5年度税制改正で創設された「簡易な扶養控除等申告書」は、どのような目的で導入されましたか?
問3. 令和7年分までの様式で用いられる「控除対象扶養親族」の定義を説明してください。
問4. 令和8年分から新たに導入される「源泉控除対象親族」には、どのような者が含まれますか?2つの要件を挙げて説明してください。
問5. 従業員が「簡易な扶養控除等申告書」を提出できるのは、原則としてどのような場合ですか?
問6. 令和7年分から8年分にかけて、親族のステータスが「異動なし」と判断され、簡易な申告書の対象となる具体的なケースを一つ挙げてください。
問7. 令和7年分から8年分にかけて、親族のステータスが「異動あり」と判断され、簡易な申告書の対象外となる具体的なケースを一つ挙げてください。
問8. 「特定扶養親族」とは、どのような要件を満たす親族のことですか?
問9. 令和8年分から適用される「特定親族」とはどのような者であり、これは何の控除の対象となりますか?
問10. 扶養控除等申告書の提出方法(紙またはデータ)によって、「異動の有無」の判定や取り扱いに違いは生じますか?
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解答
問1. 令和7年分までは「控除対象扶養親族」を記載していましたが、令和8年分からは「源泉控除対象親族」を記載するよう変更されました。この変更は、特定親族特別控除の創設に伴うものです。
問2. 従業員が提出する扶養控除等申告書について、前年から記載事項に異動がない場合に、記載を省略し異動がない旨のみを記載できるようにすることで、手続きの簡素化を図る目的で導入されました。
問3. 「控除対象扶養親族」とは、居住者と生計を一にする親族で、合計所得金額が58万円以下であり、かつ年齢が16歳以上の者を指します。
問4. 「源泉控除対象親族」とは、要件①「控除対象扶養親族に該当する者」または、要件②「居住者と生計を一にする親族のうち、19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の者」のいずれかに該当する者を指します。
問5. 原則として、扶養控除等申告書に記載すべき事項の全てが、前年分の申告書に記載した事項から異動がない場合に提出することができます。見積所得の少額な変動など一定の場合は除かれます。
問6. 令和7年分において控除対象扶養親族であった親族が、令和8年分においても引き続き年齢16歳以上、見積所得58万円以下の要件を満たし「控除対象扶養親族」である場合です。この場合、源泉控除対象親族にも該当しますが、ステータス自体に変わりはないため「異動なし」となります。
問7. 令和7年分において特定扶養親族(19歳以上23歳未満、所得58万円以下)であった親族が、令和8年分に見積所得が増加し「19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下」となった場合です。この場合、控除対象扶養親族ではなくなり、特定親族となるため「異動あり」と判断されます。
問8. 「特定扶養親族」とは、控除対象扶養親族の中で、年齢が19歳以上23歳未満であり、合計所得金額が58万円以下の者を指します。
問9. 「特定親族」とは、居住者と生計を一にする親族のうち、19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の者を指します。この親族は、新たに創設された「特定親族特別控除」の対象となります。
問10. いいえ、違いは生じません。申告書を紙で提出する場合でも、年末調整システム等を通じてデータで提出する場合でも、「異動の有無」の判定方法や取り扱いは同様です。
用語集
| 用語 | 定義 |
| 給与所得の扶養控除等(異動)申告書 | 従業員が給与の支払いを受ける際に、扶養控除などの諸控除を受けるために、毎年年初に給与支払者へ提出する申告書。 |
| 簡易な扶養控除等申告書 | 前年の申告書から記載事項に異動がない場合に提出できる、記載を簡略化した扶養控除等申告書。令和7年分から導入された。 |
| 控除対象扶養親族 | 居住者と生計を一にする親族のうち、合計所得金額が58万円以下で、年齢が16歳以上の者。(所法2 ①三十四、三十四の二) |
| 特定扶養親族 | 控除対象扶養親族のうち、年齢が19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円以下の者。(所法2 ①三十四の三) |
| 源泉控除対象親族 | 以下のいずれかに該当する者。①控除対象扶養親族、または②居住者と生計を一にする親族のうち、19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の者。(所法2 ①三十四の五) |
| 特定親族 | 「源泉控除対象親族」の要件②に該当する者。すなわち、19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の親族で、特定親族特別控除の対象となる。 |
| 特定親族特別控除 | 令和8年分以後、特定親族を対象として創設された所得控除。 |
| 異動なし | 前年の扶養控除等申告書に記載した事項から変更がない状態。この場合、簡易な申告書の提出が可能となる。 |
| 異動あり | 前年の扶養控除等申告書に記載した事項から変更がある状態。この場合、簡易な申告書の対象外となり、通常の申告書に全ての必要事項を記載する必要がある。 |

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