はじめに
中小企業の人事担当者や経営者の皆様に向けて、東京都の「介護休業取得応援奨励金」と厚生労働省の「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」の併用について最新情報を解説します。
過去には制度趣旨が重複するため併用不可とされていたこれらの助成金ですが、2025年度(令和7年度)版では併用可能との見解が示されています。本記事では両制度の概要と助成金の比較ポイントを押さえつつ、わかりやすく説明します。
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東京都と国の助成金の概要と比較
まず、東京都と国それぞれの制度概要と支給額の違いを比較しておきましょう(助成金 比較の視点)。
東京都「介護休業取得応援奨励金」
都内中小企業が従業員に介護休業を取得させ、法定を上回る制度整備(就業規則で介護休業・休暇制度を拡充)を行った場合に支給される奨励金です。
15日以上の介護休業取得で27.5万円、31日以上で55万円が支給され、さらに介護者を支える同僚への評価制度や手当支給を実施すると最大105万円まで加算されます。申請は対象従業員が職場復帰後3か月経過してから2か月以内と定められています。
厚生労働省「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」
中小企業事業主が仕事と介護の両立支援制度を整備・実施し、従業員に円滑に介護休業を取得させ職場復帰させた場合等に支給される国助成金です。具体的には介護支援プランを作成した上で、以下のような複数の支給区分があります。
- 介護休業の取得・復帰支援
従業員が連続5日以上の介護休業を取得し復帰すると40万円、15日以上で60万円 - 介護両立支援制度の利用促進
テレワークや短時間勤務など柔軟な働き方制度を導入・利用した場合、1制度導入(利用者あり)で20万円(60日以上利用なら30万円)、2制度以上導入で25万円(60日以上利用なら40万円) - 業務代替支援
介護休業中の代替要員の新規雇用で20万円(15日以上なら30万円)、社内代替者への手当支給で5万円(15日以上なら10万円)
※上記国の助成金は要件を満たすごとに複数項目を申請可能であり、組み合わせ次第では総額100万円超の受給も可能です。東京都の奨励金が休業取得と制度整備にフォーカスするのに対し、国の助成金は休業取得支援+職場環境整備+代替措置の各側面を網羅している点が大きな違いと言えます。(助成金 比較の観点)
以上を踏まえ、本題である併用(併給)の可否について、過去から現在の状況変化を見ていきましょう。
過去は併用不可:制度趣旨の重複による制限
過去には、東京都の奨励金と国の助成金を同一の介護休業で併用(同時受給)することはできないと解釈されていました。理由は両制度の目的が共に「仕事と介護の両立支援」であり、同じ趣旨で二重に助成金を受けるのは不適当(重複給付)と見なされていたためです。
実際、東京都の関連制度のFAQでも「同じ制度内容である場合には、どちらか一方の事業を選択してください」と明記されている部分もあります。例えば平成30年前後の東京都の職場環境整備奨励金では、国の介護離職防止策の助成金と内容が重複する取り組みについては併給不可とされ、「同じ取組で両方から助成を受けることはできない」とされていました。
このように制度趣旨の重複=併用NGが基本的な考え方で、同じ従業員の介護休業について東京都と国の支援を両取りするのは難しい状況でした。「二重給付の禁止」は助成金全般の原則でもあり、同一目的での複数助成金申請は認められないのが一般的だったのです。
2025年度の最新情報:併用禁止規定なしで併用可能に
ただし、制度自体は毎年少しずつ変わっていきますし、補助対象となる内容も少しずつ変化していきます。2025年度版の制度では併用はできるようでしょうか?
東京都の「介護休業取得応援奨励金」公募要項やQ&Aを確認したところ、他制度との併給禁止に関する明確な記載が見当たりません。そこで実際に、公益財団法人東京しごと財団(本奨励金の運営団体)に問い合わせたところ「併用可能です」との回答を得ました。
東京しごと財団の公式Q&Aでも、「本奨励金としては他機関の介護休業に関する助成金との併給は可能です。ただし併給先(国など)の制度で併給不可としている場合があるので事前に確認してください」と明記されています。これはつまり、東京都側では併用を妨げる規定はなく、厚労省側の助成金が許容する限り同一ケースで両方受給して構わないという立場です。
幸い、厚生労働省の「介護離職防止支援コース」2025年度版公募要項等にも、地方自治体の奨励金との併用禁止規定は特に設けられていません(育児助成の一部コース同士では併給不可の注意書きがありますが、介護コースについては見当たりません)。
このことから、2025年度現在国の両立支援等助成金側でも東京都の介護休業奨励金との併用を明確に禁止していないと解釈できます。実際、他自治体の例ですが静岡県藤枝市の「仕事と介護の両立支援奨励金」では「国の両立支援助成金(介護離職防止支援)との併用も可」と公表されており、国・自治体双方で介護休業支援策を重ねて活用できるケースが出てきています。
個別事情によってそれぞれ検討は必要ではありますが、基本的なスタンスとしては、2025年度の制度においては併用OKと判断してよいでしょう。
同一従業員の介護休業で都と国の助成金をダブル受給するポイント
以上のように制度上は東京都の介護休業取得応援奨励金と国の両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)を併用申請し、両方の給付(併給)を受けることが可能となっています。では、実際に同一の従業員の介護休業について二重に助成金を受け取るためには、どのような点に注意すればよいでしょうか。
- 双方の要件を満たす取り組みを行う
まず、自社がそれぞれの制度の支給要件をきちんと満たすことが前提です。東京都の奨励金では就業規則への制度整備と一定期間の介護休業取得・復帰が必要。国の助成金では介護支援プランの作成や柔軟な働き方制度の導入、介護休業の取得・復帰実績など複数の条件があります。双方の条件に沿った取り組みを計画し実施することで、一人の従業員の介護休業について両制度から支援を得る土台ができます。 - 申請手続きとタイミングを把握する
両制度はそれぞれ申請窓口や期限が異なるため、並行して準備を進める必要があります。東京都奨励金は職場復帰後3か月経過後に申請、厚労省助成金は介護休業取得・復帰や制度利用完了後に随時申請(年度内)というように、提出時期も異なります。介護休業の開始前から両制度のスケジュールを確認し、漏れなく手続きを行いましょう。 - 必要書類の整合性に注意
両方に申請する場合、介護休業の取得日数・期間や復帰日、制度整備の内容など申請書類の記載に矛盾がないよう注意が必要です。同じ事実関係で2件申請する形になりますので、休業証明や就業規則改定箇所のエビデンスなども双方で突き合わせ、不備なく整えることが大切です。
以上のポイントを押さえれば、適切に申請して両方の助成金を受給することも十分可能です。「助成金の併用可否や受給タイミング」について社労士など専門家に相談しながら進めるのも良いでしょう。
実際、「育児・介護と仕事の両立支援」に熱心な企業ほど、国と自治体の制度を組み合わせて最大限の支援を活用する傾向があります。
最後に:最新の公募要項や関係機関への確認が重要
助成金制度は毎年見直しや変更が行われます。2025年度に併用可能でも、来年度以降も同じとは限りません。最終的には各制度の最新の公募要項やQ&Aを必ず確認し、疑義があれば所管機関へ事前に問い合わせることを強くおすすめします。特に助成金の公募要領には「他の公的支援との併用禁止」が明記されている場合もあるため(実際、他の助成金では併用禁止規定が設けられている例があります)、書面で禁止と記載されていないか最終チェックすることが重要です。
幸い、現時点の情報収集では東京都・国とも当該助成金について併用禁止の条項は確認されておらず、公式回答でも「併用可能」となっています。とはいえ制度解釈は変わる可能性もありますので、申請前には東京都しごと財団や最寄りの労働局等に最新の運用を確認し、不安な点は専門家に相談すると安心です。
まとめ
かつて併用不可とされていた東京都「介護休業取得応援奨励金」と国の「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」は、2025年度現在では適切な手続きのもと併用申請が可能と考えられます。自社の該当ケースで是非両制度を上手に活用し、介護と仕事の両立支援に役立ててください。企業の人材確保・定着にも大きな追い風となるでしょう。各助成金を比較検討しつつ有効に活用することで、従業員にとっても働きやすい職場環境づくりが促進されるはずです。

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