エグゼクティブサマリー
本記事は、金融庁が2024年12月27日に追加した「記述情報の開示の好事例集2024」に基づき、有価証券報告書における「人的資本、多様性等」に関する開示の主要なテーマと優れた実践事例を統合的に分析するものです。
投資家、アナリスト、有識者が特に期待する開示の核心は、経営戦略と人材戦略の明確な連動性にあります。人材戦略がどのように企業価値向上に結びつくのか、インプット情報だけでなく、具体的なアウトプットやアウトカム目標まで示すことが求められています。また、人的資本に関する非財務情報と財務情報の連動、特に研究開発費や事業部門ごとの人件費といった定量的なデータの開示は、人材投資と将来業績の関連性を分析する上で極めて有用であるとされています。
好事例として挙げられた企業は、それぞれ独自のアプローチでこれらの期待に応えています。
双日株式会社は、経営戦略と連動した「動的KPI」を設定し、継続的な見直しと進捗の社内外への共有を徹底しています。ニデック株式会社は、「One Nidec」というグループ一体化経営への転換を背景に、人事ポリシーに基づいた包括的な人材開発・人事基盤整備戦略を開示しています。積水ハウス株式会社は、男女間の賃金差異について、職群・等級ごとの詳細なデータ分析と、差異解消に向けた具体的な取組みと成果を時系列で示すことで、透明性の高い開示を実現しています。
これらの事例は、単なる指標の羅列にとどまらず、戦略、指標、目標を一貫したストーリーとして提示し、現状と目標とのギャップ、その解消に向けた具体的施策を定量データと共に示すことの重要性を明確に示しています。
関連資料
動画簡易解説
投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイント
投資家や専門家が人的資本および多様性の開示において特に重要視する点は以下の通りである。
| 期待する開示のポイント | 参考になる主な開示例 |
|---|---|
| 経営戦略と人材戦略の連動性 人材戦略が企業価値向上にどう繋がるか、インプットだけでなくアウトプットやアウトカムの目的まで開示することが有用。 | ・双日株式会社 (4-9~4-11) ・ニデック株式会社 (4-13) ・株式会社SHIFT (4-15~4-17) ・住友ゴム工業株式会社 (4-18) |
| 非財務情報と財務情報の連動 人材が差別化要因となる業種では、定量情報の積極的な開示が有用。研究開発費に含まれる人件費や事業ポートフォリオごとの人件費などの開示により、人材投資と将来業績の分析が可能になる。 | ・株式会社SHIFT (4-15~4-17) ・株式会社九州フィナンシャルグループ (4-21) ・天馬株式会社 (4-28) |
| 戦略、指標、目標の連動 人材戦略の進捗を測るための指標について、目標と実績を定量的に開示することが有用。 | ・三井物産株式会社 (4-6~4-8) ・株式会社SHIFT (4-15~4-17) ・株式会社レオパレス21 (4-20) |
| 目標と現状のギャップ分析 目指すべき理想的な目標を掲げ、現状とのギャップ(何が不足しているか)を把握し、その不足を埋めるための対応方針や進捗状況を開示することが有用。 | ・株式会社九州フィナンシャルグループ (4-21) ・住友理工株式会社 (4-26) ・株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ (4-27) |
| 管理職に関する具体的施策 自社における管理職の位置付けや選別理由、管理職を増やすための施策、KPI、進捗状況を開示することが有用。 | ・双日株式会社 (4-9, 4-11) ・ニデック株式会社 (4-12) ・積水ハウス株式会社 (4-23) ・住友理工株式会社 (4-25) |
| 連結ベースでの多様性指標開示 女性管理職比率などの多様性に関する指標は、投資判断に有用な連結ベースで開示されることが有用。 | ・積水ハウス株式会社 (4-24) ・天馬株式会社 (4-28) |
好事例企業の主な取組み分析
双日株式会社
経緯や問題意識
- 人材の成長が企業価値向上の源泉であるとの認識のもと、人的資本強化を中長期的な視点で継続的に取り組む。
- 経営戦略(2030年の目指す姿)の達成に向け、人材戦略を経営課題と位置づけ、経営トップと毎週定例会を開くなど、議論を重ねて改善を続けている。
プロセスの工夫等
- 人材戦略の重点テーマを「動的KPI」として設定し、その変化を適時社内外に共有することで理解を促進。
- 前中期経営計画の実績に基づき、新中期経営計画の方針と人材戦略を議論し、動的KPIをアップデート
(例:女性課長比率目標を20%→50%へ引き上げ)。
充実化したことによるメリット等
- KPIのアップデート理由などについて外部ステークホルダーとの対話機会が増加。
- 社内でも同様の説明を行うことで、社員が会社の課題を自分ごととして考える機会に繋がっている。
開示をするに当たっての工夫
- 課題認識の背景、アプローチ、進捗を定量数値を用いて丁寧かつ端的に説明。
- 有価証券報告書に加えて統合報告書では、写真や社員の声を用いて、事業と人材の成長が連鎖するストーリーとして開示。
ニデック株式会社
経緯や問題意識
- 創業50周年を機に社名を変更し、「第2創業期」として旧来の連邦経営からグループ一体化経営(One Nidec)への転換を目指す。
- 創業者経営からの自律を目指し、「自分達で考える組織づくり・人材輩出」を課題の中心に置き、組織・ヒトの観点から施策を推進。
プロセスの工夫等
- 人事ポリシーから落とし込み、一過性でない段階的な施策と実績を網羅的に開示し、全体像が把握できるよう工夫。
- 人的資本可視化指針やISO30414なども参考に人事指標を総点検し、独自性・優位性を考慮しながら取組みを推進。
充実化したことによるメリット等
- 社内外で会社の変化や狙いを理解してもらうためのツールとなり、ステークホルダーとのコミュニケーション活発化が期待される。
- 人事上の課題(何が足りないか、何をすべきか)について継続的に議論を深めるきっかけとなっている。
開示をするに当たっての工夫:
- 初年度(2023年3月期)は過去からの取組みを網羅的に読み物形式で開示し、次年度(2024年3月期)は経年比較を加えて変化がわかるようにした。
- 有価証券報告書では全体像(網羅・実績)を、統合報告書では施策のポイントを伝えるなど、媒体ごとの役割を明確化。
積水ハウス株式会社
経緯や問題意識
- グローバルビジョン達成のため、人財価値向上を「従業員の自律×ベクトルの一致」と定義し、定量データと共に詳細な説明が必要と判断。
- 経営トップが「女性の活躍なくして会社の成長なし」と位置づけ、2005年から女性活躍を推進。他社との単純比較に終わらないよう、実際の活動や成果との関連付けを重視。
プロセスの工夫等
- 男女賃金差異について、職群・等級ごとの定量分析結果に加え、差異解消に向けた活動成果を時系列で掲載。さらに年齢別に分解し若年層の人財プールを可視化。
- 有価証券報告書全体で非財務情報の開示を充実させるため、取締役会に段階的に報告し、社外役員のレビューを受けた。
充実化したことによるメリット等
- 開示プロセスで部署横断のコミュニケーションが活性化し、組織の横串機能が強化された。
- 連結ベースでの開示範囲拡大により、グループごとの課題に応じた目標設定や施策連携、実態把握に繋がった。
- 男女賃金差異の開示と原因分析を経て、女性管理職候補者のプールが可視化され、差異解消に向けた課題が明確になった。
開示をするに当たっての工夫
- 有価証券報告書では「比較可能性指標」と「独自性指標」を関連づけ、定量データに基づく客観的分析に重きを置く。
- 任意報告書(Value Report)では、従業員の声などを交え、取組みの背景にある価値観や理念を伝える。
個別開示例の詳細分析
三井物産株式会社
同社は、人材戦略を①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標及び目標の4つの側面から体系的に開示しています。
ガバナンス
- CHRO(チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー)を人的資本経営の責任者として設置。
- 経営会議の諮問委員会として「ダイバーシティ推進委員会」を設置し、構成メンバー(海外現地法人取締役や事業本部長等を含む)や討議テーマ、開催日程を具体的に記載。
- CoE、HRBP、OPEが三位一体となったグローバル・グループ人事体制を構築し、戦略的な人材マネジメントを推進。
戦略
- 求める人材像を「自律的な成長」「強い『個』」「インクルーシブ」と明確に定義。
- 「強い『個』の育成」のため、海外修業生制度やGlobal Management Academy Programなど、グローバル・グループでの豊富な人材育成プログラムを提供。
- 「インクルージョン」推進のため、人物本位の採用を徹底。2024年3月期の総合職採用(単体)では、キャリア採用が41%(85名)を占める。
- グローバルな後継者育成計画(サクセッションプラン)のため、毎年Human Resources Strategy Meetingを開催。
リスク管理
- リスクタイプ(リスク全般、雇用プロセスに関するリスク等)ごとに、具体的なリスクマネジメント(対応策)を端的に記載。
- コンプライアンス関連ではCCOの指揮下での体制や、社内外に8つの報告・相談ルートを設置していることを明記。
指標及び目標
戦略と連動した各種KPIについて、過去3期分の実績と目標を定量的に開示。
| 指標 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 目標 |
|---|---|---|---|---|
| 人材開発・研修の費用 | – | 27.5億円 | 30.5億円 | – |
| DXビジネス人材数 | – | 82名 | 231名 | 1,000名 (2026年3月期) |
| 女性管理職比率 (単体) | 8.0% | 8.5% | 9.2% | 10% (2025年3月期) 20% (2031年3月期) |
| 男性育児休業取得率 (単体) | 54% | 65% | 70% | 100% |
双日株式会社
中期経営計画と連動させ、人材戦略の振り返りと今後の方向性を「動的KPI」を用いて具体的に示しています。
前中期経営計画(2023)の振り返り
- 2021年に設定した人材KPIの進捗と実績を定量的に開示。
- 目標を前倒しで達成した項目(女性総合職 海外・国内出向経験割合)については、目標値を引き上げるなど、柔軟な運用状況を記載。
| 人材KPI(項目) | 2023年度実績 | 2023年度末目標 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 女性総合職 海外・国内出向経験割合 | 48% | 50% | 当初目標(40%)を前倒し達成し、目標を50%へ引き上げ。 |
| デジタル基礎研修 修了者 総合職 | 100% | 100% | 目標達成。 |
| 育児休暇取得率 (男性) | 100% | 100% | 目標達成。 |
新中期経営計画(2026)の人材戦略
- 2030年の目指す姿「事業や人材を創造し続ける総合商社」に向け、「事業創出力」と「事業経営力」の強化を目指す。
- 人的資本に関するリスクと機会を「攻めと守り」の両面から整理し、アプローチを明記。
- 新たな人材KPIを設定。エンゲージメントサーベイの「積極肯定回答率」を用いるなど、より高い基準を設けている。
| 新人材KPI(項目) | 詳細 |
|---|---|
| 挑戦指数、風通し指数 | 肯定回答率から、より基準の高い「積極肯定回答率」を指標とする。 |
| デジタル応用人材 | 基礎研修修了者割合から、よりレベルの高い「応用基礎・エキスパート研修修了者」を指標とする。 |
| 海外グループ会社CxO(現地人材)比率 | KPI数値を50%から60%以上に引き上げ。 |
ニデック株式会社
「One Nidec」への転換を軸に、人材開発と人事基盤整備に関する包括的な戦略と指標を開示している。
人材開発戦略
- 「経営層及び重要ポスト後継者候補の開発」を最重要課題と位置づけ。
- 「人材開発委員会」や「指名委員会」を設置し、サクセッションプランを半期ごとに議論。
- 創業者による育成塾や「グローバル経営大学校」などを通じ、内部候補者の計画的な育成を推進。
| 経営層および重要ポスト後継者候補の開発に関する指標 | 2022年度 | 2023年度 | 2025年度目標 |
|---|---|---|---|
| 内部継承率 | 65% | 84.6% | 85% |
| 後継者候補準備率 (1~2年後) | 62% | 55.6% | 70% |
人事基盤整備戦略
- ガバナンス: 報酬委員会、指名委員会を設置し、役員の選任・報酬に関する公正性・透明性を担保。
- 制度: 国内主要グループ会社約1万人を対象に等級・報酬・評価制度を統一。管理職以上にはジョブ型人事制度を導入し、職務給に一本化。
- 採用: “永守イズム”と”Nidec Way”に共感する人材獲得を目指し、キャリア採用と新卒採用の両面で具体的な取組みと指標を開示。
| 採用に関する指標 | 2023年度実績 | 2025年度目標 |
|---|---|---|
| 一人当たり採用コスト (キャリア採用) | 2,129千円 | – |
| 採用にかかる平均日数 (キャリア採用) | 32.9日 | 30日未満 |
| 定着率 | 79.6% | – |
株式会社SHIFT
IT業界の構造課題解決を自社の使命と捉え、サステナビリティと連動した独自の人的資本経営モデルを開示。
課題認識と役割
- 日本の生産年齢人口減少とIT人材不足という社会課題を認識。
- 多重下請け構造の打破、ITエンジニアの待遇向上などを自社が担うべき役割として定義。
戦略と指標の関係性
| 社会課題解決に向けた役割 | 戦略の一例 | 指標及び目標 |
|---|---|---|
| ・IT業界に雇用を創出 ・DXを担うエンジニアを大幅増加 | ITエンジニアの採用・育成 | □人口流入数(採用人数) |
| ・ITエンジニアの働く環境・やりがいを追求 | 社内エンゲージメント向上 | □社内のエンゲージメント(退職率) |
| ・ITエンジニアの待遇を向上 | 多様な人材が評価され給与が上がる仕組み | □年間昇給率 |
| 市場価値と直結した育成 | □トップガン検定合格人数 |
主要指標の実績と目標
- 人口流入数(採用人数): 2023年度実績は2,630人。2030年度頃には年間1万人採用を目指す。
- 年間昇給率: 2023年度実績は11.0%。今後も10%前後を目安とする。
- エンゲージメント(退職率): 2023年度実績は6.2%。今後も5%前後を目指す。
- トップガン検定合格者数: 2023年度実績は2,189名。今後も年間2,000名~3,000名の輩出を目指す。
住友ゴム工業株式会社
企業理念「Our Philosophy」の体現に向け、4つの重要戦略を柱とする人的資本経営の考え方を明記。
人的資本経営の4つの重要戦略
- 1. 経営人材の育成: 不確実な状況下で先見性を持って行動できる人材の育成。
- 2. イノベーション人材の育成: 新しい価値を提供し続ける人材と風土の醸成。
- 3. DX人材の育成: デジタル技術をビジネスに応用し、新たな価値を創出できる人材の育成。
- 4. 全社員の多様性とパフォーマンスの向上: 多様な力を結集し、エンゲージメント高く働ける仕組みと風土の構築。
具体的取組みと目標
- 経営人材育成: 役員層へのエグゼクティブコーチング、360度フィードバックなどを活用したリーダーシップ向上サイクルを導入。
- DX人材育成: 間接部門全社員を対象とした育成プログラムを開始。2023年末時点で2,220名が受講(目標: 2025年末 3,500人)。RPAの市民開発により年間44,000時間以上の効率化を達成。
株式会社レオパレス21
「ELTV(従業員生涯価値)」の最大化という独自の概念を掲げ、これを向上させるための4つのテーマと関連KPIを開示。
ELTV向上のための4つのテーマ
- 1. 次世代リーダー育成
- 2. キャリアオーナーシップの拡充
- 3. ウェルビーイング経営
- 4. 付加価値創造人材の獲得・維持
KPIの実績と目標
| テーマ | 指標 | 2023年3月期実績 | 2024年3月期実績 | 2025年3月期目標 |
|---|---|---|---|---|
| 次世代リーダー育成 | 教育研修の従業員参加総時間 | 4,096時間 | 8,159時間 | 15,871時間 |
| 若手リーダー輩出延べ人数 | 0名 | 85名 | 170名 | |
| キャリアオーナーシップ | 女性管理職比率 | 5.5% | 5.4% | 6.0% |
| ウェルビーイング経営 | エンゲージメントスコア[eNPS] | – | △71 | △67 |
| 人材の獲得・維持 | 離職率 | 11.1% | 9.0% | 10%以内 |
株式会社九州フィナンシャルグループ
第四次グループ中期経営計画と連動し、2030年のありたい姿からバックキャストした人材ポートフォリオの構築を目指す。
専門人材プール充足率
- 法人コンサルティング、IT・DX等の分野で2026年の専門人材ポートフォリオ(To be)を策定。
- 充足率の目標を年度ごとに設定し、人材育成と採用を推進。
| 年度 | 2023年度実績 | 2024年度目標 | 2026年度目標 | 2030年度目標 |
|---|---|---|---|---|
| 充足率 | 34% | 44% | 60% | 100% |
社内環境整備
- 賃上げ: 2024年度に5%以上の賃上げ方針を決定。
- 初任給引き上げ: 3年連続で実施。肥後銀行・鹿児島銀行の大卒エリアフリー総合職は2025年4月に260,000円を予定(2022年4月は205,000円)。
積水ハウス株式会社
男女間の賃金差異について、詳細なデータ分析に基づき、要因、取組み、今後の展望を具体的に開示。
男女の賃金差異の要因分析
- 同一等級の賃金は同等であることを示した上で、差異の主な要因は、総合職の平均勤続年数の差(男性19.7年、女性9.9年)による管理職候補層の男女差と、営業職における女性比率の低さであると分析。
- 年代別の女性正社員比率(20代 38.5%、50代 12.2%)を示し、若年層で女性人財プールが形成されていることを可視化。
差異解消に向けた取組み
- 2005年から女性総合職を積極採用し、専門部署を設置して定着・育成を推進。
- 女性管理職候補者研修「積水ハウス ウィメンズ カレッジ」を開講。
- 連結ベースでの多様性指標を開示し、グループ全体での取組みを推進。2024年1月期の連結ベースでの女性管理職数は342人。
住友理工株式会社
アンケート調査などを活用し、現状の課題を特定した上で、具体的な改善策を開示。
女性活躍推進
- 女性総合職へのアンケートで56%が管理職を望まないことが判明。要因を「ロールモデル不足」と認識。
- 対策として、各部門での女性管理職候補の個別育成計画作成や、候補者向け研修の開始などを推進。2025年度に女性管理職比率2.5%を目指す。
男性育児休業取得率向上
- 社長メッセージの発信や、管理職向け講演会(パネルディスカッション含む)を実施。
- 講演会後のアンケートでは、84%の管理職が「積極的に取得させる」と回答(一昨年は30%)。
- これらの活動により、2023年度の男性育休取得率は50.0%(前期比28.7%増)に向上。
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
男女間の賃金差異について、3つの主な要因を明確に特定し、それぞれに対する解消策を提示。
賃金差異の主な要因
- 1. コース別賃金・男女比率の差分: 定型業務中心のBS職に女性が多く、総合職と賃金水準に差がある。
- 2. 上位職層の女性比率の低さ: 経営職階の女性比率が約1割と低い。
- 3. 男女間の労働時間の差分:
今後の取組み
- 2025年4月より総合職とBS職を廃止し、全員が「プロフェッショナル職」となるコース制度改革を実施。実力本位で職務をベースに挑戦できる環境を整備する。
天馬株式会社
多様性に関する指標を、日本国内だけでなく、海外の主要拠点(中国、東南アジア、北米)を含めた連結ベースで地域別に開示。
地域別の多様性指標(2023年12月31日現在等)
| 地域 | 管理職に占める女性労働者の割合 | 男女の賃金の格差(全労働者) |
|---|---|---|
| 日本 | 2.0% | 54.9% |
| 中国 | 21.6% | 83.2% |
| 東南アジア | 40.2% | 97.1% |
| 北米 | 12.5% | 108.3% |
| 合計 | 21.8% | 60.8% |
この開示により、グローバルでの多様性の状況や地域ごとの課題が比較可能となり、投資家にとって有用な情報を提供しています。
音声動画解説
ガイド:Q&A
1. 投資家やアナリストが、人的資本に関する開示において経営戦略との関連性を重視する際、どのような情報の記載が有用であるとされていますか?
人材戦略がどのように企業価値向上につながるかを開示することが有用とされています。具体的には、インプット情報だけでなく、人材戦略を通じてどのようなアウトプットやアウトカムを目的としているのかを記載することが求められます。
2. 双日株式会社は、人材戦略において「動的KPI」をどのように活用していますか?また、その開示によってどのようなメリットが生まれていますか?
人事施策の効果・浸透度を定量的に測定するため、外部環境や施策の浸透状況に応じて柔軟に見直しができる「動的KPI」を設定・活用しています。この開示により、外部ステークホルダーからの対話機会が増加したほか、社員が会社の課題認識を自分ごととして考える機会にも繋がっています。
3. ニデック株式会社が「グループ一体化経営(One Nidec)」へ転換する中で、人事戦略の課題の中心には何を置いていますか?
創業者経営からの自立・自律をテーマとし、将来を描き、自分たちで考える組織づくりと人材輩出を課題の中心に置いています。これを実現するため、組織・ヒトの観点からソフト面・ハード面の施策を軸に課題解消に向けた活動を行っています。
4. 積水ハウス株式会社は、男女の賃金差異の大きな要因を何であると分析し、その解消に向けてどのような人材プールが形成されつつあると説明していますか?
男女間の平均勤続年数の差(男性19.7年、女性9.9年)が管理職候補者層の差を生み、これが賃金差異の主な要因であると分析しています。長年の女性活躍推進の取り組みにより、20代・30代の若年層で女性正社員比率が高まっており、女性管理職の候補となる人財が徐々にプールされつつあると説明しています。
5. 三井物産株式会社における人的資本に関するガバナンス体制において、CHRO(チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー)が担う責任と役割を説明してください。
CHROは、人的資本経営の実行・実現を担う責任者として設置されています。ダイバーシティ経営やウェルビーイング経営の推進、人材の確保・育成・評価・報酬などを管掌する一方、人材の離職や定着率の管理といった人的資本に関わるリスクを把握し、適切なリスクマネジメントを行う役割を担っています。
6. 株式会社SHIFTが定義する「人的資本経営」とはどのような考え方ですか?また、それを測定するために設定している4つの重要指標を挙げてください。
ITエンジニアを人的資本と捉え、そのエンジニアが在籍期間にわたって生み出す利益を最大化するために投資を行う考え方です。重要指標として、(a)人口流入数(採用人数)、(b)社内のエンゲージメント(退職率)、(c)年間昇給率、(d)トップガン検定合格者数の4つを挙げています。
7. 住友ゴム工業株式会社が、競争優位の源泉を強固なものにするために掲げている4つの人的資本経営における重要戦略とは何ですか?
(1)経営人材の育成、(2)イノベーション人材の育成、(3)DX人材の育成、(4)全社員の多様性とパフォーマンスの向上の4つを人的資本経営における重要戦略として掲げています。これらを通じて、持続可能な経営を実現することを目指しています。
8. 株式会社レオパレス21が提唱する「ELTV(従業員生涯価値)」という概念について説明してください。
従業員が会社に提供する価値の総和を示す概念で、「人的価値貢献」「平均勤続年数」「従業員数」の3つの要素を向上させることで最大化されると考えています。ELTVの向上は、会社が社会に対して提供する価値の増大に繋がると位置づけられています。
9. 株式会社九州フィナンシャルグループは、将来の専門人材ポートフォリオをどのように策定していますか?そのアプローチ方法を説明してください。
2030年の「地域価値共創グループ実現」というありたい姿からバックキャスト(逆算)するアプローチを採用しています。これにより、2026年時点であるべき専門人材ポートフォリオ(To be)を策定し、それに向けて人材育成と採用活動を実施しています。
10. 女性管理職比率などの多様性に関する指標について、投資家はどのような形式での開示が有用であると考えていますか?
女性管理職比率などの多様性に関する指標については、投資判断に有用である連結ベースで開示されることが有用であると考えられています。これにより、企業グループ全体としての実態を把握しやすくなります。
主要用語集
| 定義 | |
| 人的資本 | 企業の持続的な価値創造の源泉となる人材。単なる労働力ではなく、投資を通じて価値を高めることができる資本として捉える考え方。 |
| 有価証券報告書 | 企業の概況、事業の状況、財務諸表などの情報を記載し、投資家保護のために提出・開示が義務付けられている法定開示書類。 |
| 動的KPI | 外部環境や人事施策の浸透状況に応じて柔軟に見直しができるKPI(重要業績評価指標)。双日株式会社が採用している。 |
| グループ一体化経営 (One Nidec) | 個々の会社の自主性を重んじる連邦経営から転換し、全体最適にてグループシナジーを創出しながら成長する経営。ニデック株式会社が推進。 |
| サクセッションプラン | 後継者育成計画。企業の重要ポジションについて、後継者候補を計画的に育成・準備するための計画。 |
| ELTV(従業員生涯価値) | 株式会社レオパレス21が提唱する概念。「人的価値貢献」「平均勤続年数」「従業員数」の3要素の総和で、従業員が会社に提供する価値を示す。 |
| CHRO (Chief Human Resource Officer) | 最高人事責任者。経営層の一員として、経営戦略と連動した人事戦略の策定・実行を担う。 |
| グローバルマトリクス制 | 事業と地域を2つの軸として組織を運営する体制。三井物産株式会社が採用しており、グローバルな事業展開に対応する。 |
| ジョブ型人事制度 | 職務(ジョブ)の大きさや責任に基づいて等級や報酬を決定する人事制度。ニデック株式会社が管理職以上に導入している。 |
| eNPS (Employee Net Promoter Score) | 従業員エンゲージメント(職場への愛着や貢献意欲)を測定する指標の一つ。株式会社レオパレス21が指標として開示している。 |
| バックキャスト | 将来のあるべき姿を起点として、そこから逆算して現在何をすべきかを考える思考法。株式会社九州フィナンシャルグループが人材ポートフォリオ策定に用いている。 |
| DE&I (Diversity, Equity & Inclusion) | 多様性、公平性、包摂性。多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮できる組織文化や環境を目指す考え方。 |
| タフアサインメント | 困難な課題や責任の重い業務を課すことによる人材育成手法。ニデック株式会社が経営人材候補の育成に活用している。 |
| 比較可能性指標 | 他社との比較が可能なように標準化された指標。積水ハウスはこれと「独自性指標」を関連づけて開示している。 |
| 独自性指標 | 企業の独自の戦略や価値観に基づいて設定された指標。 |
| エンゲージメントサーベイ | 従業員の会社に対するエンゲージメント(愛着、貢献意欲など)を測定するための意識調査。双日株式会社などが実施。 |

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