要旨
国税庁の令和6年分「民間給与実態統計調査」は、日本の民間部門における給与動向に関する詳細な洞察を提供しています。本調査結果から、給与所得者数および給与総額は前年に引き続き増加傾向にあることが明らかになりました。特に、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円(対前年比3.9%増)に達し、力強い伸びを示しました。
一方で、源泉徴収された所得税額は、令和6年分所得税に適用された「定額減税」の影響を受け、給与総額が増加したにもかかわらず大幅に減少(1年を通じて勤務した者で対前年比7.2%減)しました。
分析を深めると、給与水準は企業規模、事業所規模、業種によって依然として大きな格差が存在することが確認されました。特に、資本金10億円以上の大企業と個人事業所との間には顕著な差が見られます。また、男女間の平均給与の格差は根強く残っており、男性が587万円であるのに対し、女性は333万円となっています。高額所得者層が納税総額の大部分を負担する構造も継続しており、年間給与額800万円超の所得者が全体の納税額の73.6%を占めています。
本記事では、これらの主要な調査結果を客観的かつ詳細に分析し、日本の民間給与の実態を多角的に解説します。
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調査の概要
目的と沿革
民間給与実態統計調査は、昭和24年分から毎年実施されており、今回で第76回目となります。統計法に基づく基幹統計として、民間の事業所における年間の給与実態を給与階級別、事業所規模別、企業規模別などに明らかにし、租税収入の見積りや租税負担の検討といった税務行政運営の基本資料とすることを目的としています。
調査方法
本調査は、標本調査であり、2段階の抽出方法が用いられています。
- 第1段抽出: 全国の事業所を従事員数等によって層別し、設定された抽出率に基づいて標本事業所を抽出する。
- 第2段抽出: 抽出された標本事業所の給与台帳を基に、給与所得者を一定の抽出率で抽出する。ただし、年間給与額が2,000万円を超える者は全数が抽出対象となる。
主な用語の定義
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 1年を通じて勤務した給与所得者 | 令和6年の1月から12月まで継続して勤務し、給与の支給を受けた月数が12か月の者。 |
| 給与所得者 | 「1年を通じて勤務した給与所得者」と「1年未満勤続者」の合計。 |
| 給与 | 令和6年における1年間の支給総額(給料・手当及び賞与の合計額)。給与所得控除前の収入金額であり、非課税の通勤手当等は含まない。 |
| 事業所規模 | 令和6年12月31日現在の事業所の従事員数による区分。 |
| 企業規模 | 令和6年12月31日現在の事業所の属する企業の組織及び資本金による区分。 |
| 正社員(正職員) | 就業規則等において、正社員(正職員)として処遇されている給与所得者。 |
| 正社員(正職員)以外 | パート・アルバイト等、「正社員(正職員)」として処遇されていない給与所得者。 |
| 税額 | 源泉徴収された所得税額(平成25年分から復興特別所得税を含む)。 |
| 定額減税 | 令和6年分の所得税について適用される定額による所得税額の特別控除。 |
民間給与の全体動向
給与所得者数と給与総額
令和6年において、民間事業所が支払った給与の総額は241兆4,388億円に達し、前年から8兆5,316億円の増加(対前年比3.7%増)となりました。給与所得者数は6,077万人で、前年比で9万人の増加(同0.2%増)でした。
| 年分 | 給与所得者数(千人) | 伸び率(%) | 給与総額(億円) | 伸び率(%) |
|---|---|---|---|---|
| 令和2年 | 59,918 | ▲0.2 | 2,173,381 | ▲1.0 |
| 令和3年 | 60,575 | 1.1 | 2,263,070 | 4.1 |
| 令和4年 | 59,667 | ▲1.5 | 2,312,640 | 2.2 |
| 令和5年 | 60,682 | 1.7 | 2,329,072 | 0.7 |
| 令和6年 | 60,774 | 0.2 | 2,414,388 | 3.7 |
源泉徴収税額
源泉徴収された所得税額は11兆1,834億円となり、前年から8,227億円の大幅な減少(対前年比6.9%減)を記録しました。これは令和6年度税制改正に伴う「定額減税」の実施が主な要因と考えられます。
給与総額に占める税額の割合は4.63%となり、前年の5.15%から低下しました。
| 年分 | 税額(億円) | 伸び率(%) | 税額割合(%) |
|---|---|---|---|
| 令和2年 | 102,185 | ▲2.6 | 4.70 |
| 令和3年 | 112,517 | 10.1 | 4.97 |
| 令和4年 | 120,424 | 7.0 | 5.21 |
| 令和5年 | 120,061 | ▲0.3 | 5.15 |
| 令和6年 | 111,834 | ▲6.9 | 4.63 |
年間を通じた勤務者に関する詳細分析
本分析の中心となる「1年を通じて勤務した給与所得者」は5,137万人(対前年比1.2%増)でした。
基本統計:平均給与と男女・雇用形態別の状況
1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は478万円(対前年比3.9%増)となりました。男女別では、男性が587万円(同3.2%増)、女性が333万円(同5.5%増)であり、女性の伸び率が男性を上回ったものの、依然として254万円の大きな格差が存在します。
雇用形態別では、正社員(正職員)の平均給与が545万円(同2.8%増)、正社員(正職員)以外が206万円(同2.2%増)であした。
| 区分 | 給与所得者数(万人) | 平均給与(万円) | 対前年伸び率(%) |
|---|---|---|---|
| 合計 | 5,137 | 478 | 3.9 |
| 男性 | 2,925 | 587 | 3.2 |
| 女性 | 2,212 | 333 | 5.5 |
| 正社員(正職員) | 3,431 | 545 | 2.8 |
| └ 男性 | 2,208 | 609 | 2.5 |
| └ 女性 | 1,222 | 430 | 4.1 |
| 正社員(正職員)以外 | 1,256 | 206 | 2.2 |
| └ 男性 | 417 | 271 | 1.0 |
| └ 女性 | 839 | 174 | 3.0 |
• 平均給与の内訳
平均給与478万円のうち、平均給料・手当は403万円、平均賞与は75万円。賞与が給料・手当に占める割合(賞与割合)は18.5%であった。
• 平均年齢・勤続年数
平均年齢は47.2歳、平均勤続年数は12.6年となっている。
属性別平均給与の比較
事業所規模別
事業所の規模が大きいほど平均給与は高くなる傾向が見られます。
| 事業所規模(従事員数) | 平均給与(万円) | 男性(万円) | 女性(万円) |
|---|---|---|---|
| 10人未満 | 392 | 486 | 282 |
| 10~29人 | 444 | 544 | 315 |
| 30~99人 | 437 | 519 | 326 |
| 100~499人 | 475 | 568 | 349 |
| 500~999人 | 499 | 603 | 359 |
| 1,000~4,999人 | 547 | 680 | 363 |
| 5,000人以上 | 539 | 694 | 335 |
企業規模別
企業規模(資本金)による給与格差は事業所規模以上により顕著です。資本金10億円以上の株式会社の平均給与は673万円に達し、個人事業所の266万円の約2.5倍となっています。
| 企業規模 | 平均給与(万円) | 男性(万円) | 女性(万円) |
|---|---|---|---|
| 個人事業所 | 266 | 305 | 248 |
| 株式会社(資本金2,000万円未満) | 403 | 488 | 277 |
| 株式会社(資本金10億円以上) | 673 | 789 | 426 |
| その他の法人 | 446 | 556 | 363 |
業種別
業種によって平均給与には大きな開きがある。「電気・ガス・熱供給・水道業」が最も高く832万円、次いで「金融業,保険業」が702万円でした。一方、最も低いのは「宿泊業,飲食サービス業」の279万円でした。
平均給与が高い業種
- 電気・ガス・熱供給・水道業: 832万円
- 金融業,保険業: 702万円
平均給与が低い業種:
- 宿泊業,飲食サービス業: 279万円
- 農林水産・鉱業: 339万円(※出典に図はあるが具体的な数値は宿泊業、飲食サービス業のみで、他業種は図からの推計値ではなく、統計表第13図の記載に基づく)
年齢階層別・勤続年数別
- 年齢階層: 男性の平均給与は年齢とともに上昇し、55~59歳の階層(735万円)でピークに達する一方、女性は年齢による給与の差は男性ほど顕著ではない
- 勤続年数: 男女ともに勤続年数が長くなるにつれて給与は高くなり、30~34年の階層でピークを迎える(男性831万円、女性509万円)
給与階級別分布
給与所得者全体の分布を見ると、「300万円超400万円以下」の層が最も多く、構成比は16.1%でした。
- 男性: 最も多いのは「400万円超500万円以下」の層(構成比16.9%)
- 女性: 最も多いのは「200万円超300万円以下」の層(構成比19.0%)
| 給与階級 | 全体構成比(%) | 男性構成比(%) | 女性構成比(%) |
|---|---|---|---|
| 100万円以下 | 7.7 | 3.5 | 13.1 |
| 100万円超 200万円以下 | 11.1 | 5.6 | 18.4 |
| 200万円超 300万円以下 | 13.2 | 8.7 | 19.0 |
| 300万円超 400万円以下 | 16.1 | 14.3 | 18.5 |
| 400万円超 500万円以下 | 15.3 | 16.9 | 13.3 |
| 500万円超 | 36.6 | 51.0 | 17.7 |
税額と納税者
1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人のうち、源泉徴収により所得税を納税している者は3,753万人で、全体の73.1%を占めます。
- 納税総額: 11兆363億円(対前年比7.2%減)
- 納税者の給与総額に占める税額の割合: 5.25%
高額所得者層が税負担の大部分を担う構造が顕著です。年間給与額800万円超の給与所得者は全体の12.0%に過ぎないが、その納税額は合計8兆1,255億円に上り、納税総額全体の73.6%を占めています。
年末調整と各種控除
年末調整を行った者は4,721万人(全体の91.9%)であった。
- 扶養控除等: 配偶者控除または扶養控除の適用を受けた者は1,175万人、扶養人員がいる者1人当たりの平均扶養人員は1.41人
- 保険料控除: 主な保険料控除の適用状況と1人当たりの平均控除額は以下の通り
| 控除の種類 | 適用人員(万人) | 1人当たり平均控除額(万円) |
|---|---|---|
| 社会保険料控除 | 4,093 | 74.4 |
| 生命保険料控除 | 3,212 | 6.7 |
| 地震保険料控除 | 949 | 1.6 |
ガイド:Q&A
問1: 民間給与実態統計調査の主な目的は何ですか?
この調査は、民間の事業所における年間の給与実態を給与階級別、事業所規模別などに明らかにすることを目的としています。また、その結果は租税収入の見積り、租税負担の検討、税務行政運営等のための基本資料として利用されます。
問2: この調査はどのような方法(標本抽出)で行われていますか?
この調査は2段階の標本抽出によって行われます。まず、事業所の従事員数等によって層別し、標本事業所を抽出します(第1段抽出)。次に、抽出された標本事業所の給与台帳を基に、一定の抽出率で標本給与所得者を抽出します(第2段抽出)。
問3: 令和6年分調査における、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与はいくらで、前年と比較してどのような変化がありましたか?
1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円でした。これは前年比3.9%の増加であり、4年連続の増加で過去最高額となりました。この伸び率は平成3年分調査以来の高い水準です。
問4: 平均給与における男女間の差はどのようになっていますか?また、雇用形態(正社員とそれ以外)による差についても説明してください。
男女間の平均給与には大きな差があり、男性が587万円であるのに対し、女性は333万円です。また、雇用形態別では、正社員(正職員)の平均給与が545万円、正社員(正職員)以外の平均給与が206万円となっています。
問5: 業種別で見た場合、平均給与が最も高い業種と最も低い業種はそれぞれ何ですか?
平均給与が最も高い業種は「電気・ガス・熱供給・水道業」で832万円でした。一方、最も低い業種は「宿泊業、飲食サービス業」で279万円となっており、業種間で大きな格差があることがわかります。
問6: 1年を通じて勤務した給与所得者のうち、所得税を納税している者の割合(納税者割合)はどのくらいですか?
1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人のうち、源泉徴収により所得税を納税している者は3,753万人で、その割合は73.1%です。これは前年から13.3ポイントの減少となっています。
問7: 1年を通じて勤務した給与所得者全体で、最も構成比が高い給与階級はどこですか?
1年を通じて勤務した給与所得者全体では、「300万円超 400万円以下」の階級が826万人(構成比16.1%)で最も多くなっています。次いで「400万円超 500万円以下」の階級が多くなっています。
問8: 企業規模(資本金)によって平均給与にどのような違いが見られますか?
資本金10億円以上の株式会社の平均給与が673万円であるのに対し、資本金2,000万円未満の株式会社では403万円と、企業規模が大きいほど平均給与が高くなる傾向が見られます。個人の事業所ではさらに低く、266万円です。
問9: 調査結果に見られる「乙欄適用者」とはどのような給与所得者のことですか?
「乙欄適用者」とは、1人の給与所得者が2か所以上の支払先から給与の支払いを受けている場合に、主たる給与以外の給与分に関して独立した給与所得者とみなされる者を指します。
問10: 令和6年分調査において、近年の変更点として新たに追加された調査項目は何ですか?
令和6年分調査では、令和6年度税制改正に伴い、定額による所得税額の特別控除である「定額減税」に関する項目が調査項目として新たに追加されました。
用語集
| 用語 | 説明 |
| 1年を通じて勤務した給与所得者 | 令和6年の1月から12月まで引き続き勤務し、給与の支給を受けた月数が12か月の者。 |
| 1年未満勤続者 | 「1年を通じて勤務した給与所得者」以外で、12月31日現在在職している者。 |
| 乙欄適用者(おつらんてきようしゃ) | 1人の給与所得者が2か所以上の支払先から給与の支払を受けている場合に、主たる給与以外の給与分に関し独立した給与所得者とみなして乙欄適用者という。 |
| 企業規模 | 令和6年12月31日現在の事業所の属する企業の組織及び資本金による区分。 |
| 基幹統計(きかんとうけい) | 統計法に基づき、国の行政機関が作成する統計のうち、特に重要なものとして総務大臣が指定する統計。この調査は指定統計(第77号)を経て、基幹統計とされている。 |
| 給与 | 令和6年における1年間の支給総額(給料・手当及び賞与の合計額で、給与所得控除前の収入金額)。通勤手当等の非課税分は含まない。 |
| 給与所得者 | 「1年を通じて勤務した給与所得者」と「1年未満勤続者」の両方を合計したもの。 |
| 源泉徴収義務者 | 所得税法の規定により、給与等について源泉徴収する義務がある者。 |
| 事業所規模 | 令和6年12月31日現在の事業所の従事員数による区分。 |
| 正社員(正職員) | 役員、青色専従者を除く就業規則等、雇用管理上において、正社員(正職員)として処遇している給与所得者。 |
| 正社員(正職員)以外 | 役員、青色専従者を除くパート・アルバイト等、「正社員(正職員)」として処遇していない給与所得者。 |
| その他の法人 | 株式会社を除く、有限会社、合名会社、合同会社、医療法人、特定非営利活動法人などの法人。 |
| 定額減税(ていがくげんぜい) | 令和6年分の所得税について適用される定額による所得税額の特別控除。 |
| 納税者 | 給与所得者のうち、源泉徴収された所得税額がある者。 |
| 扶養人員(ふようじんいん) | 所得税法の規定により配偶者控除、扶養控除の対象となった配偶者及び扶養親族の合計人員。 |
| 平均勤続年数 | 給与所得者の令和6年12月31日現在における勤続年数の総計を給与所得者数で除したもの。 |
| 平均給与 | 給与支給総額を給与所得者数で除したもの。 |
| 平均年齢 | 給与所得者の令和6年12月31日現在における年齢の総計を給与所得者数で除したもの。 |
| 役員 | 法人の取締役、監査役、理事、監事等。 |
| 年末調整を行わなかった者 | 乙欄適用者、前職の給与が不明である者、年間給与額が2,000万円を超える者など、年末調整を行わなかった者。 |

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